看護師にとって薬理学の知識は必要不可欠!
奥が深いお薬の世界を現役の看護師&薬剤師が丁寧に解説します。
国試の過去問といっしょに学習していきましょう。

1.抗菌薬? 抗生物質?

今まで、みなさん自身も一度は抗菌薬を使ったことがあると思います。
そんなとても身近な薬。でも、種類もたくさん、容量用法も様々で実は考えるべきポイントがたくさんある抗菌薬を今回は取り上げたいと思います。
実は抗菌薬より抗生物質という言葉のほうがよく聞くかもしれません。
まずはこの違いからはじめたいと思います。

抗菌薬:細菌の増殖を抑制し、殺菌することで感染症や炎症を抑えるもので、
人工合成によって作られた病原微生物に対抗する化学物質
抗生物質:抗菌薬のうち細菌や真菌といった「生き物」から作られるもの

●抗菌薬と抗生物質

つまりは抗生物質も抗菌薬の中に含まれるということですね。
というわけで、今回は「抗菌薬」という言葉で統一したいと思います。


2.敵の細菌は大きく分けて4種類!

抗菌薬の対象は“細菌”ですが、たくさんの種類があります。だからこそ様々な抗菌薬が使用されています。一般的な分類は、グラム染色(細菌の染色法のひとつ)で大きく4つに分けられます。
臨床ではグラム陽性球菌と、グラム陰性桿菌が原因菌となることが多くなっています。

この患者さんの病状の原因となっている原因菌はこれ、とすぐに確定すれば無駄なく薬剤を使用することができます。でも実際は原因菌の確定には時間がかかります。
発熱や何らかの症状のため受診→採血・血液培養(ここで菌の同定、感受性の確認を行います)や何らかの検査を行います。白血球数、CRPやプロカルシトニンなどの炎症反応を示すデータ(あねごの検査データ 第8回参照)は即日で検査結果が出ますが、血液培養の結果は数日かかってしまうのです。そのため現実には菌の同定が行われる前に、予測して治療を開始します。「多くの種類の細菌に対して効果がある薬」を最初に投与するケースがあるのはこのためです。

薬剤師から一言

薬剤師

鶴原伸尚さん
つるさん薬局(東京都)の薬剤師。患者さん一人ひとりの想いを大切に日々奮闘中。
患者さんから「この抗生物質は強いですか」という質問をよく耳にします。同じ症状でも医師によって利用する抗生物質は様々です。

そんな時に、私はこう説明しています。
「抗生物質を長期に利用すると耐性ができるので、よく変更します。また効果がない場合も、
早めに見切りをつけて変更する場合もあります。強い薬と信じてどのような症状に対しても服用しようとするよりも、自分の現在の症状に効果のある薬を探すことの方が、大切です」

3.注意すべき副作用は?

アレルギー症状がまず早期に発現しやすいものとなっています。特にアナフィラキシーショックを起こやすい「ペニシリン系」「セフェム系」は要注意! 初回投与後に発疹・血圧低下(またそれに伴うふらつきやめまい)などが出た場合、重症化すると呼吸停止に至ることもあります。また、アレルギーには交差アレルギーといって、アレルギーを起こした物質と似た構造を持つものに同様にアレルギーを起こす場合があり注意が必要です。

そのほかに腎機能・肝機能の悪化、一般的なものとして消化器症状(下痢など)があります。腸内細菌のバランスが崩れることで、クロストリジウムディフィシスという感染症に罹患する場合もあります。抗菌薬を処方される時に整腸剤を処方される場合が多いのもそのためです。

4.看護上の注意点

1)初期診療では、患者からの情報がとても大切です。

症状として、発熱だけでなく、頭痛(髄膜刺激症状があるか、髄膜炎)、尿の性状(色・量・混濁)、痰の性状、呼吸音おなかの痛み(嘔吐・腹部膨満感・腸蠕動音)、局所の発赤・熱感・腫脹・疼痛など(創傷からの感染)などを、いかに患者さんの状態から観察しアセスメントするかがカギとなります。採血による炎症データとこれら症状から医師は疾患の予測をつけ、必要ならばCTなどの検査の追加を行います。

私の体験ですが、なかなか咳が止まらない患者さんが、小児科の受付の仕事をしているという情報から、小児に多いマイコプラズマ感染症を疑い早期に治療を開始することができたことがありました。旅行歴や職業なども重要な情報になることがあります。
看護師として働いていると、抗菌薬を使用することはあまりにも当たり前の業務の一環となっています。でも、患者さんの臨床症状を細かに観察することで、より適切な抗菌薬を使用することができることは事実であり、そのためには私たちのアセスメント能力が問われています。

2)薬の飲み方をしっかり説明

用法容量を守ることで、正しい効果が出ること、耐性菌を防ぐことができることを伝えることが大切です。

3)そして忘れてはならいないスタンダードプリコーション!

もうひとつ忘れてはいけないこと。それは、すべての患者さんの血液・汗を除く体液・分泌物・排泄物・傷のある皮膚・粘膜などすべてを感染源とみなし予防策を講じる必要があるという「スタンダードプリコーション」の概念です。
私も院内感染として話題になりやすいMRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)や多剤耐性緑膿菌は、実際に病棟で遭遇したことがあります。先日、千葉県こども病院で心臓手術を受けた生後1か月未満の男児がMRSAに感染し、死亡した事件があったばかりなので、耳にした方も多いと思います。

MRSAはメシチリン耐性黄色ブドウ球菌の略語ですが、先ほどの細菌の分類にもあげた黄色ブドウ球菌の一種。普通の黄色ブドウ球菌は私達の皮膚や口腔内、鼻粘膜などに付着している常在菌で、抵抗力が低下した場合などに感染症を引き起こします。MRSAもただ保菌しているだけでは感染を起こすことはありませんが、高齢者や小児、自己免疫疾患の人など免疫力が低下している人が体内で増殖し感染を起こすと重症肺炎、局所感染が重篤化し細菌性髄膜炎を引き起こすことも。効果のある抗生剤が全くないわけではありませんし、入院したその日に感染が判明するわけではありません。ただし、私たち看護師が水平感染を起こすきっかけになりうるのだという理解が必要です。

●薬剤耐性菌の発生

ちょうど先月、私の勤務する病棟でも「手洗いのタイミングをきちんと理解し実践しましょう!」というキャンペーンを行っていましたので、WHOが推奨している手洗いの5つのタイミングをご紹介しておきましょう。

(1)患者への接触前
(2)清潔操作の前
(3)血液・体液に暴露されたおそれのある時
(4)患者への接触後
(5)患者周囲環境への接触後

実習中、患者さんの痰を触った手袋そのままでカーテンをあけたら? ベッド柵に触ったら? 想像するだけでちょっと身震いしてしまいますね。受け持ち患者さんは、その時点では感染症に罹患していないかもしれません。でもそれはただ単に感染症に罹患していると判明していないだけかもしれません。
だからこそ、スタンダードプリコーションの概念を理解し実践することが大切です!

再び薬剤師から一言

薬剤師

抗生物質に限らず、薬が好きな患者さんと嫌いな患者さんがいます。

薬が好きな患者さんの場合は・・・
他の病院でも薬をもらっていることがあるので、お薬手帳見て、同じ系統の抗生物質が続いていないか、今までの経緯を確認します。また自分に効いたと思って同じ抗生物質を要望する患者さんには、耐性ができて効かなくなってしまうことを説明します。
薬が嫌いな患者さんの場合は・・・
最近の医療現場では、なるべく抗生物質を処方しないようにしているので、必要に応じて抗生物質が処方されていることを説明します。その薬が必要だから処方されたのですよと。

5 最後に国試の過去問を解いてみよう。

第102回看護師国家試験 午前問題79(疾病の成り立ちと回復の促進)

ペニシリン投与によって呼吸困難となった患者への第一選択薬はどれか。
1. ジギタリス
2. テオフィリン
3. アドレナリン
4. 抗ヒスタミン薬
5.副腎皮質ステロイド

正解・・・3
ペニシリン投与後に呼吸困難を起こした患者にはショックが考えられる。アドレナリンはショック時の血圧維持に効果があり、第一選択薬となる。


(テキスト:sakura nurse・鶴原伸尚 イラスト:中村まーぶる)