今回頂いた質問

113回の国試で、鉄摂取推奨量についての問題がありました。
栄養素には鉄以外もいろいろあるのに、なぜ鉄について出題されたのでしょうか。何か理由があるのでしょうか。

ご質問ありがとうございます。
鉄摂取推奨量が特に問題となるのは、月経のある女性です。その理由は、鉄の利用サイクルを知れば分かります。

1.体内における鉄の役割

人間の体には約5g(クギ1本分程度)の鉄が存在しています。うち1gは肝臓に貯蔵されています。鉄は、ヘモグロビン(赤血球内の酸素を運搬する蛋白質)の成分はじめ、様々な役割を担っています。鉄は、ほとんど捨てられることなく完全にリサイクルされています。例えば120日の寿命を経て古くなった赤血球は、脾臓で破壊されますが、鉄は次に生まれる赤血球のために活用されていきます。
 

2.月経がある女性の場合

しかし、月経や消化管出血で体外に血液が出てしまうと、鉄がリサイクルにまわらず、鉄欠乏性貧血に陥ってしまいます。鉄欠乏性貧血がゆっくりと進行した場合、疲れやすい、集中力が低下する、頭痛がする程度の症状のため、長期間見過ごされてしまう場合も多くあります。そうならないため、月経がある女性の鉄摂取推奨量は10.5mg/日と、月経がない場合の6.5mg/日と比較して多くなっています。

3.鉄を摂取する際の注意点

鉄の摂取に関して注意しなければならないのは、吸収率の低さです。動物性の食品(赤身の肉や魚、あさり、レバーなど)に含まれる鉄(ヘム鉄)の吸収率は約50%、植物性の食品(ひじき、ほうれん草、小松菜など)に含まれる鉄(非ヘム鉄)の吸収率は約15%といわれています。そのため、鉄欠乏性貧血の予防や改善のためには、吸収率の高い動物性の食品を摂取したり、吸収率を高めるビタミンCを同時に摂取したりする必要があるでしょう。

 このほかに、鉄摂取推奨量を覚えておいてほしい時期は、妊娠期です。妊娠中は胎児の成長や、妊婦自身の循環血液量の増加によって鉄の需要が増えます。妊娠初期は2.5mg/日、妊娠中期と後期では9.5mg/日が推奨量として付加されます。妊娠中は月経がないため、「月経のない成人女性の鉄摂取推奨量」に付加されることに注意しましょう。

 

以上が質問の回答です。
では、「食事摂取基準」に関する国家試験の過去の問題を解いてみましょう。

問題

第113回看護師国家試験 午後問題2

日本人の食事摂取基準(2020年版)に示されている、18~49歳女性(月経あり)の鉄摂取推奨量はどれか。

1. 5.5mg/日
2. 10.5mg/日
3. 15.5mg/日
4. 20.5mg/日

1.× 月経のない18~49歳の女性であっても、6.5mg/日の鉄の摂取が必要とされています。5.5mg/日では明らかに不足しています。
2.○ 正しい。
3.× 妊娠中期や後期の鉄の摂取の推奨量と考えられます。
4.× 女性の生涯のどの時期においても、20.5mg/日の摂取は過剰です。
正解…2

●「基礎看護学」について理解を深めるには、科目別強化トレーニング

編集部より

今回は月経のある成人女性の鉄の摂取推奨量を取り上げましたが、過去にはナトリウムやカルシウム、食物繊維などの摂取基準について出題されています。また、妊娠各期の食事摂取基準(カロリー、蛋白質、葉酸、鉄など)も頻出です。しっかり確認をしておきましょう。